episode. 1

暮らしは生き方と教えてくれた
スペインでの日本人画家との出会い

暮らしは生き方と教えてくれた
スペインでの日本人画家との出会い

自宅に飾っている橘与四郎さんの画。帰国後、探し回り手に入れた作品

その人の生き方そのものがあらわれた家

ハンドワークスが、暮らしや風景を大切にした空間作りをしているのは、どういうところからきているのですか。

僕が暮らしや生き方に関心を持つようになったきっかけは、20代の頃に出会ったスペイン在住の画家、橘与四郎さんの存在があります。

橘さんは、下宿先の大家さんの知り合いの方でした。当時の僕は、これから自分は何を目的にどう生きていくんだろうと、迷っているような時期で。大学を休学してヨーロッパを旅しようと思っていると伝えると、橘さんを紹介されました。

手紙を送ると「いつでも来てください」と返事が届いた。普通なら遠慮するところなんでしょうけど、スペインを周遊した際に訪ねて行きました。


— それで、実際に行かれて、どうでしたか。


すごくあたたかく受け入れられて、2週間とちょっと居候させてもらいました。
橘さんが住んでいたのは、スペインのはずれの、観光では絶対に行かないだろうっていう田舎の小さな漁村で。向こうで奥さんをもらってお子さんもいて。

橘さんは、家も自分で作っていたんですよ。家具も建具も、漆喰も全部。

「ここには、生涯一の作品を飾ろうと思っている」という壁には、額ぶちだけがかかっていた。

もう空間そのものも、暮らしも、全部がアートだった。
衝撃的でしたね。なんか、こういう生き方があるんだって。

橘さん(右)と若き日の佐藤(中央)。スペイン滞在中、橘さんのご自宅にて。
左奥の壁面にある絵のない額が「いつか自分の最高傑作を飾りたい」という夢のたっぷり乗った余白。

アート、ですか。

そうですね。その人らしさというか。
橘さんの生き方、人生そのものがそこに全て出ているような気がしました。

それは、場所選びからそうで。

村のはずれに歩いて登れるくらいの岩山があって、橘さんの家はその裾に建っていた。僕や客人が来た時は村へ降りて行ってバルで全部ご馳走してくれるんですよ。で、その村から最寄りの町に行く便は2週間に1回ぐらいしかない。そんな村でした。

日本の便利さや快適さとは、違う基準の場所ですね。

そうですね。スペインは経済的に見れば、当時は日本よりはるかに貧しかったと思います。なんだけど、生きる目線がそこじゃなかった。

人を感動させたり、感動をもらったり。当然、喜びだけじゃなくて、悲しみもあるけど、なんというか気持ちを大事にしている感じがありました。

家具も家も、楽器だったり、作り手の気持ちが入った仕事も多いんでしょうね。そういうふうに作られたものが身の回りにあって、影響しあって世界観がつくられていたように思います。

感動することや、気持ちが大事にされている感じがあった。

そうですね。

橘さんは自分の人生を生きている人だと思いました。滞在している間、橘さんのこれまでのお話も色々聞かせてもらって、自分で人生を作っていったんだと分かって。うん。

俺も自分で作れる人になりたい。そうだった、大工になりたかったんだって、そこで思ったんですよね。

本当は、人生で一番初めになりたいと思った仕事が大工だった。通っていた保育園に時々遊びに来ていたのが、園舎を建てた大工さんで。これを一から作れるってすごいなって、当時の僕にとってはヒーローみたいな存在でした。

ただ、僕の父は研究者で、ずっと研究者になれと言われていて。親の影響はやっぱり大きくて、高校生の頃には研究者になるのかなと思うようになっていた。ただ、建築に対する憧れはずっとあって、中学のころ建築学科のある高校に行きたいと言ったけど、一蹴されて叶わなかった。そうして忘れていった。

橘さんとの出会いで、抑えてきた気持ちのフタがぼーんと開いて、エネルギーが湧いてきた。日本に帰って、淡路島にある伝統構法も手がける工務店にお世話になることが決まって、大学は辞めました。

スペインでの時間が蓋をしていた夢や理想を思い出させた。

家という空間をつくる仕事

大工の仕事をはじめて、いかがでしたか。

色々と大変なこともあったけど、大工の仕事は楽しくて、自分に合ってるなって、天職だって思いました。ずっと指先が器用な方だったんで、不安はなくて。大胆さと繊細さの両面が必要なんですけど、その切り替えが得意なんだと思います。

大工になったのが23歳の時。周りは18歳から働いているから、同い年でも5年の差があって、空いている時間やみんなが仕事していない時に、仕事をしないと差が埋まらないという危機感から、なんでもやりましたね。

手でつくる仕事とそこにのる思いを大切にしている。

建築士の勉強もそうだし、休日は違う工務店の現場を見させてもらったり。明日この作業が始まるなって思ったら、任せてもらえるようにその準備をして行ったり。そんなふうにして、できることを増やしていきました。

1年間、階段の施工ばかり任された時は実際にたくさんのことを吸収できたし、遠方の現場を3人で担当した時は、早朝から一人現場に行ったり、お客さまと話したことを設計に反映しながら作っていって。自由度が高くて楽しかったですね。

工務店では4年ほど働いて、独立しました。

経験を積まれて、あらためて大工として、今大切していることはなんですか。

僕は、大工の仕事は空間を作ることだと思っています。そのための技術はもちろん必要です。ただ、自分の技術をみせるように技巧をこらすのは主従が違うという考えは、スペインでの体験から来ています。

家も家具も、人の気持ちが動かないものって、たとえそれが精工にできているものであっても、僕にとっては全然良いものだとは思えないんですよ。

自宅の台所から望む景色。佐藤がこの家で美しいと思う眺めの一つ。

やっぱり作りたいものは、広い意味でのアート、なのかな。

それは人の魂が動いたり、気持ちが動いたり、感動があること。美術品のようなものではなくて、窓から見る景色や、太陽がつくる陰影だったり、木々の緑の色や、季節ごとに違う日の入り方。一言で言うのは難しいけど、その人が美しいと感じるもののことです。

そこにしっかり機能があること。アートと機能が一緒になっていれば、みんなそこに住みたくなる。生命の安心が満たされていて快適でも、心が動かなければ、幸せとは言えないんじゃないかと思うんですよね。

家もやっぱりその一つだと思います。

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