episode. 2
家は、住みながら手を加え
作り続けていくもの
家は、住みながら手を加え
作り続けていくもの

ものづくりとデザインを行き来して
— ハンドワークスという社名には、どんな思いが込められていますか?
手で作るもの、全般を対象にしたいというイメージです。
家だけ、家具だけ、じゃなくて、手で作るもの全部。たとえばそれが、木に限らず陶器だとしても、一つの世界観で空間を作れたらという考えでつけました。
— 佐藤さんは、大工であり設計士でもあって。両方の視点があると何が変わりますか。
アプローチが違ってきますね。
一般的な建築の場合、はじめにこういうものを作りたいというビジョンがあって、それに必要な部材を後から調達すると思うんですけど、作り手目線のデザインだと、部材からできるものを考え出せるんですよね。


これを加工したらどういうことができるかなとか、そういうものづくり脳みたいなものが結構大事で。僕は木も好きですし、その辺も得意なところかなと思います。
作りたいデザインと、材料と。両方を行ったり来たりしながら、進めているというのが正確ですかね。こんなものがないかな。これで作れるな。で、図面に反映して。並行して進んでいく感じです。
— なるほど。
例えば、僕の家で言うと「垂木」という屋根を支える部材も、材木屋さんの倉庫に眠っていた材料に惚れ込んで、これを活かして何が作れるだろうって。
元々は一本のごつい角材だったんですが、それだと軽快さに欠けると思って、半分に製材して、少しだけ隙間を開けたかたちで固定しています。これは日本の伝統的な垂木配りの一種で「吹き寄せ」という技法です。そうすることで外側は木材の古びた表情が見えつつ、重さも感じさせない印象になりました。玄関の扉もそんなふうに製材して作ったものです。

— 木材の表情がいいですね。
そうですね。
こうした部材は倉庫にもストックしていますし、材木屋さんにも、日本が景気が良くて木を使う文化が盛んだった時に製材された木がまだいっぱい眠っているんですよ。
そういうものが活用できたらすごく面白いと、僕は思うんですけどね。
— あまり使われないんですか。
先にデザインが決まっていると、長さが足りなかったり、節があるからだめとなったり。使いたくても使えないんですよね。
デザインする設計士が紙の上で考えること、それ自体が悪いというわけではなくて、それだけに一本化されることがよくないんじゃないかと僕は思っていて。使いたい材料、使えそうな材料が先に分かっていたら、それを生かすデザインができる。
ものを作る人がデザインするという作り方が、あってもいいかなとは思います。

一人ひとりの世界観を感じ取ること
— 家を作る。そのこと自体、人生ではじめてという方が多いですよね。どんな家にしたいか、思いが漠然としている方もいるのではないでしょうか。
そうですね。
ハンドワークスに来る方で、こういうものが作りたいって明確になっている方はほぼいなくて、はじめはふわっとした気持ちを、打ち合わせを重ねて、段々とリアルなものにしていく。僕はそれに伴走する役割でもあります。
話して、こちらからも提案をして、だんだんとお客さま自身がこういうものが好きだったんだと分かっていく、気がついていくという感じですね。
— 繊細な作業ですね。
繊細ですね。
僕の考えを押し付けるのは違うと思っているので、すこし広い範囲のゴールイメージを持って、そこからズレるようであればお伝えして、みたいな感じで進んで行きます。お客さまの希望でも、難しい場合や問題点があれば説明した上で、最終的な判断はお客さまがされていますね。
あとは、お客さまの好みも色々ありますから。ヴィンテージが好きな人もいれば、シュッとしたのが好きな人もいるので、その人らしさが表れるように。

— 好みというのは、とても大切な、その人を表す感覚ですね。
そうですね。その方がいいなと思う喫茶店があったら、見に行ったりもします。本当に人それぞれ、色々な世界観で生きているし、こういう感覚なんだなというヒントにしたり。だから、できるだけお客さまの思いに忠実に作りたいと思っています。
— そうして作られた家は、やはりその方らしいものになっていますか。
そんな気がしています。

住みはじめてからも作り続けていく
— 佐藤さんのご自宅も、ご自身で少しずつ手を加えてるそうですね。
僕の、この家はでき上がった時も未完成で、少しずつ手を加えながら今に至るみたいな感じです。
実際に暮らしていくと、予期しないこともいっぱいあります。
この家も、洗濯物を外に干すための物干しを作っていたけど、妻がヤギのえさの花粉アレルギーになってしまって。外で干せなくなったので、今は家の中で干しています。お客様が来る時には外さないといけないという、不便さもあるんですけど。
住む前に考えていても限界はあって、そういう予期しない変化にも対応できるようにと思ったら、2、3割くらい余白の部分があって、住みながら作っていく考え方が、一番合理的だと思いますね。

木の建具がはぐくむもの
— ハンドワークスの家は、木の窓枠や扉が印象的です。
できる限り既製品のサッシを使わず、手作りで窓や建具を作る「木建具」を採用しています。そうすると季節の変わり目には、ふくらんだり空いてきたり、何らかの変化はあるんですよね。はじめの1年でだいたい治りますけど。
”木建具はそういうもの”と受け入れる方は、どこかゆるやかさがある感じがしていて。こんなふうにちょっと削ったら治りますよとか、こんな道具があるんですねとか、メンテナンスもお客さま自身で覚えていかれる。そういうの、いいじゃないですか。
木建具の良さには、もちろん景観的な視点もありますけど、お客さまとの関係が消費者とメーカーにならない感じもしています。
— 消費者にならない。
そうですね。
家は消費するもの、ではないと思うんですよ。
完成品みたいなものではなくて、住みはじめてからも、手を入れて、作り続けて直し続けていくもの。
木建具はそういう認識も持たせてくれるように思いますし、木の建具の家が増えていくことで、日本の景観が変わるだろうって思っています。

街なみや風景を作る家
— 佐藤さんが景観のことを考えるようになったのはいつごろからですか。
それは、ずっとあるかもしれないです。
僕が生まれたつくば市は、もともと里山だった場所を開発したところで、子どもながらに綺麗な街に住んでいるなと思っていました。松林や土地の傾斜を残しながら遊歩道を作って、そのなかにぽつ、ぽつと公務員宿舎があって。その宿舎もまたかっこよかったんですよ。
海外の景観に対する意識も影響しているかもしれないですね。
そういう集合的な考え方は、今の時代にそぐわないようで、宿舎も取り壊されていきました。今はきちっと区画されて、区画ごとに管理が分かれて、ある意味では分かりやすいというか、そういう時代になっていますよね。

— ハンドワークスに依頼されるお客さまは、景観についてどう考えていますか。
はじめから考えている方は多くはないですが、話すと分かってくれますね。例えば、こんなふうにしたいというお客さまの希望が、地域の建築様式を壊してしまうようなものであれば、僕の考えをお伝えします。
僕は、大工というよりも、もう少し広い意味で、景観を通して人を幸せにできたらという風にも考えていて、作る家も景観を良くする方向に向かう仕事でありたいですね。
— 橘さんの暮らしように、たゆみなく自分の暮らしに手を入れて、作り上げていく営みは、家の中だけでなく、外装や庭、景観へと広がっていくのかもしれないですね。
そうですね。たとえば篠山のような里山に住むのであれば、自然とそういう風になっていくのかなとは思っています。
