episode. 3
住みながらも美しく整えていく。
家づくりは贅沢な遊び。
住みながらも美しく整えていく。
家づくりは贅沢な遊び。
仲岡 信人さん

丹波篠山で「信凜窯」を営む仲岡さんのご自宅。
工房兼ギャラリーの奥にあった空き家を取得し、数年かけて仲岡さん自ら整理・解体を進めつつ、改修を行いました。
解体を進めていくなかで、想像以上に傷んでいる箇所が見つかったり、大雨の時には雨水被害をあったり。一時は「改修ではなく建て替えた方がいいのか」と迷われたそうですが、古い家が持つ佇まいや梁の曲線に魅かれ、それを残したいと改修を決断されたとのこと。
「朝起きた時に、毎日幸せを感じる。居心地が良すぎて、仕事に出るのが難しくなった(笑)」と話す仲岡さんに、ハンドワークスと行った家づくりについてお話を聞きました。
ご家族構成
仲岡 信人さん(陶芸家)、仲岡 由里さん(教員)、長男、長女、次女
猫2匹
遊び心のあるものづくりをする方だと思っていた

— こちらの家づくりは、どんなきっかけで始まったんですか。
仲岡さん:元々はギャラリー横の工房兼宅地に住んでいたんですが、子どもが大きくなってきて手狭に感じていたんですよね。
ここは、以前住まれていた方が亡くなってから空き家になっていて、何年か前に購入していました。なかなか時間が取れなくて、手がつけられずにいたんですが、コロナの時期に時間ができたことが転機になって、家の中の片付けを進めながら、建ててくれる方を探し始めました。何人か訪ねて回りましたね。
僕と奥さんは青年海外協力隊の同期で、設計をお願いしたエイチ・アンドの半田さんも協力隊出身ということが分かって。作られているものも良かったですし、お会いした時に僕たち夫婦と同じような雰囲気を感じたこともあって、設計をお願いすることにしました。
佐藤さんとは奥さん同士が知り合いで、以前から知っていたんですよ。佐藤さんの手がけた仕事も知っていて、素敵なものを作る方だなって。佐藤さんともお話をして、施工をハンドワークスさんにお願いすることになりました。

— ハンドワークスの建物、素敵だなって。
仲岡さん:そうですね。どの建物も意匠がいいですよね。僕は直線的なピチッとしたものより、少し遊びがあるようなものの方が好きで、ハンドワークスの作るものには、そういうところが随所にあるので。
佐藤さんのことは以前から面白い人だなって思っていましたし、一緒に家を作ってみて、なんていうか、視点が普通の工務店じゃないし、本当のことを言ってくれる人だなと思っています。
いくつもの課題を相談して、乗り越えて

— 設計をエイチ・アンドさん、施工をハンドワークスが担当する形で家づくりが始まった、と。
佐藤さん:施工面から見積もりをさせてもらって、費用を考えて仲岡さん自ら解体を進めていかれましたよね。その中で、この建物を本当に改修する価値があるのかって、疑問を持たれた場面がありましたよね。
仲岡さん:そうでしたね。佐藤さんは図面通りにいかないところもありそうだからと言ってくれて、エイチ・アンドさんとハンドワークスさんと僕でお話する場も持たせてもらいましたよね。普通、あまりないそうなんですけど、ありがたかったですね。
— 始まってからも、色々なことがあったとか。
仲岡さん:解体の途中で大雨が降ったことがあって、山側から水がじゃんじゃん入ってきたんですよね。それが結構ひどくて、シロアリの影響もあったし、本当に微妙な線だな、潰した方がいいかなと思ったことがありました。
佐藤さんに「どう思いますか。解体して、同じ予算で作るとしたらどうなりますか」って相談すると、「もしそうするなら、シンプルな箱型の建物になりますね」と言われて、それはやっぱり嫌だなって。

佐藤さん:その1件だけじゃなくて、解体を進めるほど思っていた以上の劣化が分かって、本当に直す甲斐のあるものだろうかって、仲岡さんと僕でお話しましたよね。
仲岡さん:やめるなら今だという瞬間が、2回はあったように思います。改修するにも次の垣根を越えないといけないという問題があったんですが、佐藤さんは適当にしたり見て見ぬふりしないで、すごく考えて進めてくれていたって分かったんで。
— そうした過程を経て、仲岡さんが改修したいという意志を再確認できたことは大きいですね。
仲岡さん:そうですね。僕は本当に運が良くて、基礎をしてくれた方もこの辺りの方で、本当によく考えてくれて。そういう人たちの力があったから、なんとか直せた気がしますね。
佐藤さん:みんなで知恵を出し合った感じでしたね。

— 良い時だけじゃなくて、非常時にも家をどう安全なものにするか。
仲岡さん:そうですね。ここは後ろが山で、雨水の問題があった。それを佐藤さんが見事に解消してくれましたね。
佐藤さん:実は、この出窓の厚みは、実は人が入れるメンテナンススペースなんですよ。元々の家の基礎よりもこの幅だけ広げていて、雨避けとしての役割やシロアリがきた時の点検スペースとして作っています。それが結果的に、出窓っぽくなりましたね。
— この奥行きも、またいいですね。
仲岡さん:そうですね。子どもたちも猫も、ここでくつろいでますね。

機能性と安全、そしてデザインと

— 家づくりで、仲岡さんが大切にされていたのはどんなことですか。
仲岡さん:それを言ったらもう全部になるんですけど、やっぱり意匠は大事で。でも機能しないと意味がないとも思っていて。
— 暮らす場所としての、機能。
仲岡さん:そうですね。前の家は寒かったので、もう寒いのは嫌だと思って、床暖も入れましたし、共有部の広さも僕は欲しかった。あとは床を20cmほど下げてくださったんで、頭を打つこともなくなって。笑
佐藤さん:その分、下に人が入れるスペースがなくなったので、シロアリ対策としては別の策を講じています。

— 佐藤さんから見て、仲岡さんはどんなことを大切にされている方だと感じましたか。
佐藤さん:耐震性のこともよく話されていたし、まず防災意識のすごく高い方だなと思っていました。火事になった時に逃げる動線も相談されて、逃げ道をいくつか確保できるような作りにしましたね。
仲岡さん:家で家族が死んだら意味がないですから。耐震補強も限界までやって欲しいとお願いした記憶があります。
佐藤さん:耐震に関しては、エイチ・アンドさんが計算してくれたものに則って施工しています。
ハンドワークスの工夫という面では、例えば2階部分の手すり。耐震性に影響しない部分を壁ではなく手すりにすることで、空間としての一体感が生まれるので、そんなふうにしています。

仲岡さん:階段も、壁を作ったり普通のものにするのではなくて、金属のものにして欲しいとお願いをして、佐藤さんの仲間の職人さんが作ってくださって。
階段は上り下りするためのものだけど、この形ならオブジェにもなる。スイッチやあかりも、毎日目にするものはこだわりました。でも現実として予算はあるので、床材は身の丈に合わせて選んだり。
— そういったところも、佐藤さんと確認しながら進めていかれた。
仲岡さん:そんな感じでしたね。


今振り返っても、贅沢な体験だった

— 家づくりを振り返って、何が印象に残っていますか。
仲岡さん:すごく贅沢なことをさせてもらっていたように思います。
— 贅沢なこと。
仲岡さん:躯体は佐藤さんにお願いしながら、電気工事や、左官屋さんとは僕がやりとりをして。工房の改装など何回かしていたので、大体の手順が分かっていたこともあると思うんですけど、僕自身が現場監督をしているみたいな感じがありました。
佐藤さん:少し前の時代の旦那みたいに職人を招いてああしてこうして、みたいな感じでしたよね。
— 作り手の方へ直接思いを伝えられるのは安心できますね。この家で、一番好きなところはどこですか。
仲岡さん:やっぱりリビングかな。ここで朝コーヒー飲んでいるのも好きですし、夜は夜でほわほわと晩酌しているのが一番幸せな時間です。住み心地はすごくいいですね。

— ご家族の様子はいかがですか。
仲岡さん:どうだろう。自分の空間を持てていることは子どもたちも満足していると思います。下の子は、なんかもう家が大好きみたいで、あまり出かけたがらないですね。ここで好きな番組を見ている方が楽しいって言ってます。
設計の時に、家事動線は奥さんの意見をすごく聞いてもらったし、シンクやコンロも好きに選んでいて、人が家に来た時に家を案内しているのを見ていると、奥さんも気に入っているんだろうなと思います。

— この家の好きなところ、佐藤さんはいかがですか。
佐藤さん:全部好きなんですけど、こういう曲がった梁は、壁をどこに建てるかによって、見え方が変わってくるんですね。
どう綺麗に見せるか、調整するのがすごく難しい。そういうところをひたすら現場で考えるのが僕の仕事なんですね。木材の曲線と壁の直線、デザインでどう整えるか、一つひとつ結構細かく考えますね。

仲岡さん:いいですよね。壁も考えてくださって、天井と壁の加工が違うんですよね。この土壁は、僕が陶芸で使っている丹波の土だったり。
佐藤さん:あとは、裏山と表の庭、両方の窓からつながる景色は、裏山にこれから手が入ることですごく贅沢な景色になるとも思いますね。
住みはじめてからも続く、家づくり

仲岡さん:実は、家づくりはまだ続いているんですよ。手付かずの部屋もあって、そろそろ手をつけていきたいですし、表の庭はある程度完成しましたけど、次は裏山。
— 暮らしの領域が広がっていますね。
仲岡さん:そうですね。僕が望んだ以上に、たまたまな部分も大きいんですが、家を中心に手を入れる範囲が少しずつ広がっていますね。
裏山はまず竹の手入れをしたんですけど、これから登り窯を作ろうと思っていて、それなら、車が上がれるような動線もいるし…って、頭の中でずっとイメージしていますね。

— 楽しそうです。
仲岡さん:土地に手を入れたり、リアルに家を作ったりできるのは、大変だけどやっぱり面白いですよね。死ぬまでにもう一つ、好き勝手に建物を建ててみたいとも思っています。
佐藤さん:数寄屋作りってそういう意味なんですよ。型にはまっていない、というか。
— 住む人が周辺の環境に手を入れていくのは大事なことですね。
仲岡さん:そうなんですよ。木だって、剪定をちゃんとすれば、横に広がって木陰を作ってくれて、危険な木にはならないですし、掘り起こした土から出た石で石垣を組んだり。しんどいこともありますけど、整っていけば気持ちもスッキリするし、形になっていくのは楽しいです。楽しみながらやって、美しくなっていけばいいなと思っています。

設計:エイチ・アンド一級建築士事務所
施工:ハンドワークス