episode. 6

両親から継いだ花屋という仕事。
花も建物も、時代に流されない良いものを

両親から継いだ花屋という仕事。
花も建物も、時代に流されない良いものを

堂内 康伸さん

三田駅南口のロータリーを抜けると、生き生きとした緑や花々が軒先を彩るフラワーショップ「花いちもんめ」。
親の代から続く花屋を、堂内さんが継いだのが2004年のこと。はじめたころは思うように行かず、試行錯誤を繰り返しながら、事業が軌道に乗ったタイミングで、店舗の改装を行いました。
2019年には2階のアトリエを改装。素材の経年変化を楽しみつつ、広がる事業のアイデアと共に店舗の細かな部分にもその都度手を加え、日々たゆまぬアップデートを続ける堂内さんと「花いちもんめ」。
「この人に任せようと直感的に思った」と話す堂内さんに、ハンドワークスと歩む店舗作りについてお話を聞きました。

設計・施工:HANDWORKS
竣工:2015年12月

親から継いだ店を、自分の城に

堂内さんのフラワーショップ「花いちもんめ」の全景

ーハンドワークスへの最初の依頼は、お店の改装だったそうですね。

堂内さん:そうですね。花屋を継いでから10年目。ずっと、自分の城を持ちたかったんです。

ちょうど自宅を購入したタイミングとも重なっていて、結構借り入れもしましたけど、仕事は好きだし、働けば返せるだろうって。何よりモチベーションが上がりましたね。

ーご両親の代から、この場所でお花屋さんをされていたそうですね。

堂内さん:そうです。僕はもともと車が好きで、工業高校では溶接を学んでいて、花とか興味なかったんですよ。でも、高校を出る時に母から「花屋は継がなくていいよ」って言われて、逆に気になったというか。
ずっとやんちゃしていたんでね。まあ、恩返しですよ。
雇われるタイプでもないなって思ったし、決まっていた就職先は断って、母に紹介された先で3年修行させてもらって、戻ってきて花屋を継ぎました。

あくまでも自分らしく。Instagramでは日々の装花と自身の思いを飾らずに発信している。

堂内さん:それまで花屋は女性の仕事ってイメージでしたけど、実際にこの世界に入ってみたら、現場はかなりの重労働。花屋をおしゃれでかっこいい仕事、憧れてもらえる仕事にしたいと思って、僕なりにずっとやっています。

戻ってきて2年後に母の病気が見つかって、その翌年に送り出しました。その間に、はじめてゆっくり母と過ごす時間を持てて、お店のこと、これからのこと、色々と話ができました。

SNSが出はじめたころは、自分も横文字のかっこいい名前に変えたいなと思ったりもしましたけど、母がつけた「花いちもんめ」という屋号のままで全国区になろうって決めました。この名前じゃなきゃ、僕が花屋をやる意味がないんでね。

それでもはじめのころはなかなかうまくいかなくて、試行錯誤しながら、その期間を通して視野が広くなっていったんだと思います。少し落ち着いて、気持ちにもゆとりが出て。

両親の店のままでは自分の城ではない感じもあったんで。店を継いで10年経って、仕事も軌道に乗って、改装しようと思ったんですね。

「花いちもんめ」という屋号も、母から引き継いだものの一つ

時代に流されない良い仕事をしてもらった

ーハンドワークスは、どういったきっかけで知ったんですか。

堂内さん:お店の改装するならって紹介していただきました。近くに、栫さんのカコカフェもあって、お店や庭の雰囲気も好きでしたし、佐藤さんが手がけた別の事務所のことも知っていたので。

佐藤さんのご自宅にも伺って、未完成の家のことやご家族のことを話していただいたんですよね。

佐藤さんはめちゃくちゃナチュラル志向で、材料のことも大事にする人だなって。僕も、花はめちゃくちゃ大事にするから分かるんですよ。余分に作って、お金を取ろうとする感じも一切ない。僕も色々経験しているんで、ちょっとお話ししたらどんな人か見えてくるから、お話をしながら「あぁこの人に任せよう」って直感的に思いました。

たくさんの対話を重ねて、堂内さんの好みや思いをつかんでいった

ー佐藤さんは、堂内さんにどんな印象を持たれたんですか。

佐藤:まず、男前な人だなと思いました。お会いしてから10年以上経ちますけど、その印象は本当に何も変わらないですね。

色々なお店やお花屋さんを一緒に見に行ったり、堂内さんの着ているものや雰囲気からも、ヴィンテージだったり、モルタルのような無骨感のあるもの、少し荒々しさの残る感じが好きなんだろうなというのは伝わっていました。

ただ、花いちもんめというお店のことを考えると、堂内さんのほかはかわいらしい感じの女性スタッフが働いているし、古くからのお客様のことも考えると、あまり行きすぎるのも違う気がして。

堂内さんの好きな感じと、とがりすぎず馴染むような提案と。その辺りをすり合わせさせてもらいましたね。

堂内さん:折り合いがつくところを見つけていった感じでしたよね。鉄と木の深い色合いが合わさると僕の好きな感じになるんで、段々とみんなにも受けるものもいいかなって、僕もバランスを考えるようになっていきました。

日々並べ替えられる店舗前のディスプレイ。アイアンと木材の風合いが調和している

ー念願のご自分の城、考えを通したいという気持ちはなかったですか。

堂内さん:佐藤さんはプロだからね。

僕もタイプは違うけど、仕事ではある程度任せてもらいたいと思うところはあるから。人にはそれぞれ得意分野があって、それを伸ばした方が職人としても良い仕事ができるじゃないですか。

佐藤さんが、今のお店に近いイメージ図を持ってきてくれた時に、「わ、すごい。めっちゃええやん」って言ったのを覚えています。

佐藤さん:ディスプレイができるように、お店の左半分を従来より下げて、右半分は逆に出して。窓枠を白にすることで少し男性感を和らげるような提案をしました。

一方で、外装も店内も、所々にすこし粗いイメージを残しました。

店舗内のレジカウンターは、堂内さんの好きなテイストで

堂内さん:改装した当時は5年経ったらまたリフォームをしようと思ってたけど、そうしないまま10年経ちました。僕、結構飽き性なんですけど、佐藤さんが時代に流されない良い仕事をしてくださったからだと思ってます。

甘すぎても飽きていただろうし、斬新すぎても地域に馴染めない不自然さもあっただろうし。時間が経って、シャビーな感じも出てきて、今もいいなと思いますね。

年月がつくる、使いこまれた風合い

ーお店の気に入っているところはどこですか。

堂内さん:色々あるんですけど、お店を閉めた後の、扉の倉庫感は気に入っていますね。

毎日、扉を閉めたら、お店である「花いちもんめ」さんに挨拶してから帰るんですよ。朝もお店にちゃんと挨拶してからはじめる。ここがあるから、商売させてもらえてるんでね。

扉を閉めている時の、無骨な感じは結構好きですね。

店舗外にあるシャッター。一日ごとにしっかりと区切りを作る

光、影、コントラスト。今でも毎日発見がある

2019年に改装した2階アトリエ

ーその後、2階もハンドワークスと改装されたんですよね。

堂内さん:そう。週に2、3回、花屋さんを対象にワークショップを開いているんですが、手狭になっていたんで。

こちら側の壁も、もう少し荒々しく仕上げて欲しいと左官屋さんにお願いしたんですが、綺麗にはできるけど逆は難しいということで、自分でやらせてもらいました。最後だけ少し調整していただいて。

電気を消した時に出る、この凹凸感が気に入っています。

堂内さんが手がけた土壁。自然光が作る陰影が、装花を引き立てる

ー作業台もハンドワークスが作られたとか。

佐藤:木材はコンクリートの型枠に使ったものを再利用しているんですけど、フレームは新しい木だったから劣化した表情をつけて馴染ませるために、結構色々試しましたね。

堂内さん:この机にしたって、材料を再利用して、また新しい一つの物語を作るって、素敵じゃないですか。材料も今はどんどん高騰しているけど、昔の材料とか、良いものを使う佐藤さんの姿勢に優しさが滲んでいますよね。

この場所にもともとあるものも使ってくれたりして、デザインも作るのも両方やっているのに、価格もなんも佐藤さんは本当に良心的だなって思います。

壁面それぞれに異なる表情を持ちつつも、全体が調和するよう色味も考え尽くす

堂内さん:僕もSNS用にお花の写真を撮りますけど、花そのものはもちろん、背景になる空間、ロケーションも本当に大事なんですね。ここで装花レッスンをした後に写真撮影もするんですけど、色々な表情の場所があって、好みや雰囲気に合わせて選べるので喜んでもらえていますね。

花屋は湿気がすごいんで、窓は複層ガラスにしてくれて、でもそれがあまり見えないような窓枠の作りにしてくれている。

あげ出したらキリがないですけど、佐藤さんは見た目も機能性も考えて、細かいところまで作り込んでくれるのが本当にありがたいんですよ。

ハンドワークスが作る木の窓枠。複層ガラスを使いながらも構造が見えづらいように仕立てる

佐藤:窓枠も、建具やさんにお願いすれば綺麗なものができるんですが、堂内さんは綺麗すぎないイメージを好まれていたんで、それに合うように自分たちで作りました。窓枠や扉などの建具を自分たちで作るようになったのはこの現場からだと思います。

堂内さん:お店にいて、今も毎日発見があるんですよ。季節によっても、天気や時間帯によっても、光の入り方とか綺麗だなと思う場所、お花との相性だったり。

花に触れている時の手、影とのコントラストに垣間見える美しさ。秘密の花園に入りたくなるような心理というか、芸術性というか。そういうことを分かりやすく「エロさ」って僕は表現しているんですけどね。

堂内さんの装花レッスンの場は、全国に広がる

堂内さん:この建物と対照的な話をしていても、この建物が全部緩和してくれるというか、フラットにしてくれるというか。そういう感じを持っているなと思いますね。

お客様から、このお店からいいオーラが出ていますねと言われたことがあったんですよ。「オーナーさんのパワーもすごいけど、お店のエネルギーも強いですね」って。嬉しかったですね。そういう、良い気っていうのかな。絶やさずに出していきたいなって思いますね。

人と人。ずっと続いていく関係で

堂内さんとハンドワークス佐藤。顔を合わせると店舗のアイデアで話がつきない

ー施主の堂内さんと、施工の佐藤さんと。引渡し後も、継続的な関係が続いているんですね。

堂内さん:佐藤さんには、なんでも相談しやすくて。細かいところでも気になっていることを話すと、なんとなく分かったんでやっていきますみたいに返してくれるので。

忙しいのは知っていますけど、まあ色々相談したいこともあるし、近くに来た時は寄ってくださいとは伝えています。

佐藤:僕ね、実は引渡しという感覚があんまり分かっていなくて。大工を始めて、引渡しはいつですかって言われた時に、あんまり考えたことなかったなと思ったことがあったんです。

ここを改装した時も、12月の繁忙期の前に一時的にお店を閉めていただいて、一気に改装しましたよね。お店を閉めている期間が少なくて済むように、オープンした後でもできる工事は後回しにしたり。

お店の改装は、現場で必ず想定していなかったことが起こるので、その辺りを調整しながら進めました。時間がないスリルもあるんですけど、お祭りのような高揚もあって、面白いですね。

「仕事が毎日楽しい。まだまだやりたいことも多い」と話す堂内さん

堂内さん:その間は、近くに借りている倉庫で仮営業していたんですけど、毎日見に来るのが楽しみでしたね。忙しくしているのに話しかけられたら迷惑だろうなって思いながら。

夢が形になっていくのを見ているのが、面白かったですね。

佐藤:施工中は、全体に意識を配りながらやっているんで、話しかけられてもしっかりお応えできないことも多くて…。そこは本当に申し訳ないと思っています。

堂内さん:雰囲気を見て、今日は話しかけないとこうって帰ったりしましたね。僕としては、佐藤さんのことを戦友みたいに思っているから。何年経っても気を遣うことがない、中高の部活の仲間みたいな感覚ですね。

力強さも、柔らかさも。さまざまな表情を持つ店舗

ーお店を改装して10年。ご自身の変化ってありましたか。

堂内さん:優しくなったかな。心理的にもね、お店から影響を受けていると思いますね。

ここの建物の振り幅というか、受け止めるストライクゾーンの広さ。毎日ここにきて、毎日目にしているから、やっぱお店とリンクしているんかなと思いますね。

ーこれからしていきたいことってありますか。

堂内さん:今、佐藤さんにはお店の外装のことを相談させてもらっています。

ただ、この建物に対しては、あんまり装飾をしたくない感じがあって。年齢的なこともあるかもしれないけど、極力、削ぎ落としていきたいなと思っています。

建物でも花でも。結局、最後は人と人。人間性に集約されていくと思うんですよね。そういう面で、佐藤さんのことを信頼しているし、自分と合う人だなと感じています。

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鉄|tipura studio. 佐々谷良
左官|藤田勝行

インタビュー|小川直美
写真|大﨑 俊典(photo scape corner.)

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