episode. 5
夢が叶った場所だから、日々大切に手入れして。
夢が叶った場所だから、
日々大切に手入れして。
栫 さんご夫妻(カコカフェ)

三田市を走る国道176号線沿い。そこだけ森のように木々が生い茂る場所があります。アーチ上に伸びた木々の下を抜けると、ある瞬間に空気が変わり、カフェの入り口にたどり着きます。
ここは、栫(かこい)さんご夫婦が営むカコカフェ。カフェをするのが夢だったというご主人が、奥さまを誘って2012年に始められました。
「心が疲れている時でも、ゆっくりと過ごせる場所にしたい」。2人の思いを受けて作り上げられた空間を、ご主人は日々慈しむように大切に手入れをして、お客様を迎えてきました。
「休日もここで過ごすのが僕の贅沢」という栫さんと奥さまに、建物との日々を伺いました。
設計・施工:HANDWORKS
竣工:2012年6月

ーこの場所にカフェをひらかれて、もう14年になるそうですね。
奥さま:そう。あっという間でしたね。
栫さん:過ぎてみたら、そうかもしれないね。ずっと、カフェをするのが夢でね。この建物の建設に合わせて、一階部分をカフェとして作っていただきました。
はじめは別の方に設計をお願いしていたんですけど、連絡が取れなくなってしまって。困っていたときに、以前から知り合いだった広瀬木材店の広瀬さんから紹介されたのが、佐藤さんでした。
「変わった人だけど、1回話聞いてみたら」って。会ってみたら、確かに変わった人だった(笑)。けど、すごく信頼している方の紹介だから、絶対に間違いないだろうと思いました。
奥さま:佐藤さんにお店のコンセプトとしてお伝えしたのは、来ていただいた方にゆっくり過ごしてもらいたいということ。心が少し疲れてしまったような時でも、癒されるような落ち着く場所にできたらとお話しました。
ー佐藤さんは、お二人の思いをどう設計に反映されたんですか。
佐藤:この場所は目の前を国道が走っているので、お店の前に植栽スペースが必要になるなと思いました。国道を通る車が、植栽の緑の向こうに景色として感じられるくらいの距離感があるといいだろうと考えて、従来のフロントラインからお店の入り口をかなり下げて、奥行きのある庭を作ったことが一番大きなポイントだったかなと思います。
その上で、植栽のある庭から店内へゆるやかにつながっていくようなイメージで設計をしました。

栫さん:はじめに聞いた時はね、それだけ下げるなら1台分駐車ができそうだなと思ったんです。そしたら佐藤さんが「車の後ろを見ていても、お客さんは楽しくないと思いますよ」って言ってくれて、それもそうだなって(笑)。
奥さま:入り口部分をこれだけ下げてくださったおかげで、車が通っていても全然気にならないですねって、皆さんおっしゃるんですよ。
栫さん:庭の木も、始めの頃は枯らしたこともありしましたけど、今は立派に育ちました。何度も前を通っているけど、お店があるって気が付かなかったとおっしゃる方もいまだにいらっしゃいます。
佐藤:植栽は、庭師の松下さんにお願いしました。どちらかというと、日陰を好む繊細な木を選んでいただいた記憶があります。お庭も、いつ来てもよく手入れされてますよね。

栫さん:剪定は定期的にプロにお願いしていますけど、お客さんも喜んでくれるから手入れするのも楽しみなんです。植物も常にこうかわいがってあげたくてね。庭師さんもこだわりのある方でね、今は本当に、当時描いていただいた図面の通りになりました。
奥さま:庭師の松下さんからも、大事に育ててもらっていて嬉しいですって言ってもらえています。
使うなら本物を。
経年変化がつくる店内の柔らかな表情

ー飲食店の設計で店内を小さくする決断は勇気がいったのではないですか。
佐藤:栫さんのお話を聞いてイメージしていたのは、お二人が丁寧に接客できるようなお店のあり方でした。それだと、従来の案では広すぎると感じたんですよね。
奥さま:結果的に、ちょうどいい広さだったなと思います。

佐藤:普段は、おひとりや2人連れ、多くても3、4名のグループが中心で、日によっては8名くらいのお客様が来られたり、空間全体を使うようなシーンもあるだろうということだったので、それが叶うようにゾーニングを工夫した記憶があります。
床に高低差をつけて圧迫感のない仕切りを設けることで、ゆるやかに3つの空間に分けています。
栫さん:目線の高さが違うだけで空間の感じ方が変わるって、佐藤さんに教えてもらいましたね。

佐藤さん:そうですね。入り口横のエリアは椅子も一番低く、店内奥の一段上がったスペースから外を見る視線ともぶつからない。仕切りの高さや、どんな風に空間を区切るか。家具はどうするか。一つ一つ、結構悩みましたね。
栫さん:壁や床はもちろん、本棚やテーブル、椅子も、お店に合わせて佐藤さんが作ってくださいました。広瀬さんのところにある、古い良い木材を使ってくれたのも嬉しくてね。

ー木目がつくる流線や、土壁の自然な割れ目も、機械的じゃない感じが落ち着きますね。
佐藤:土壁に割れ目を作るのも乾かし方に工夫が必要で、左官屋さんにお願いして仕上げました。土間は、時間をかけて良い感じのすれ具合になっていますね。
テーブルも使い込まれたきれいな塗膜ができてる。
栫さん:佐藤さんは、本物の土壁、本物の木材を使いたいと話してくれたんです。土壁風、木材風というのは好きじゃないんですって。


栫さん:私らの年代からするとこういう内装には懐かしさがあって、年配の方は「落ち着きますね」と言われますけど、若い方にとっては新しさを感じるみたいで、お店に入った途端に「かわいい」って言いますね。
佐藤さんは一つひとつをこだわって作られる方なんで、あんまりこだわらないタイプの施主さんだと合わないかもしれないですけど、僕はああしたいこうしたいと相談できたことが楽しかったですね。
奥さま:内装や設計をお仕事にされている方もお客様としていらっしゃるんですけど、「ここは施主さんと設計と、作られた方と、みんなの気持ちが一つになっている、すごくいい空間ですね」って言ってくださるんですよ。
佐藤:ありがたいですね。

夢を叶えてもらったから、大切に使っていきたい

栫さん:一つだけ、僕がこだわったのが対面式のカウンターを作って欲しいということでした。
ー栫さんがカウンターにこだわったのは、何か理由はあるんですか。
栫さん:僕が若いころに通っていた喫茶店にカウンターがあって、マスターや奥さんと話したりした思い出がずっと残っているんですよね。
なんてことないことを話しながら、ナポリタンとかサンドイッチとか、色々作って出してもらったりね。あれがすごく楽しかったなって印象が今も残っているんですよね。
だから、カフェをするなら、カウンターでお客様とお話ししながらコーヒーを出すというのが楽しみだったんで、そこだけは譲れないこととしてお願いしました。
佐藤:設計の視点から言うと、今の流行りではないということと、お客様から厨房のスペースが見えすぎてしまうのではと気になっていたんですね。ただ、栫さんは給仕しているところとお客様が一体になる感じを望まれているんだなと気がついて、できる限り大きく作ることにしました。
コーヒーを淹れている栫さんと、カウンターに座るお客様の目線がちょうど合う高さになっていますよね。

ーお客様はどんな方が多いですか。
栫さん:カウンターは常連さんが多くて、若い方も来ますね。旅行に行ってきましたとか、今日こんなことがあってねって話をしてくれたりして、毎日、仕事が楽しいですね。
カウンターはお客様同士が仲良くなって、一緒に出かけたりする方たちもいるくらいです。
奥さま:40〜50代の方は、お一人でゆっくり過ごされていますね。外を見ながらゆっくりお茶を飲まれて、「いいとこ見つけました」と言ってくださいますね。
週末は、若いカップルの方もいらして、窓側の席によく座られていますね。あとはママ友さんたちが来てくださったりね。

栫さん:お店を作る時は、若い人というよりは大人の方がゆっくりできるようなコンセプトだったんですけど、結構若い方もいらっしゃいますね。
僕たちが赤ちゃんも子どもも好きで、抱っこさせてもらったりするから、お客さんは0歳から90代の方もいらしています。「マスター、この子を抱っこしてくれたの覚えてますか」って中学生くらいの子を連れてきてくれたりね。
奥さま:特にお子さま用の椅子や食器は用意していないんですけど、それでも良ければって。入り口に段差がないので、車椅子の方も来られますよ。


奥さま:佐藤さんにこんな風に仕上げていただけたから、このお店をここまで長く続けられたんだと思っています。
佐藤:いやいや。お二人のお人柄です。
栫さん:佐藤さんに作ってもらって、夢が叶って。だから、やっぱり大事にしないとって思ってます。
佐藤:今日あらためて伺って、栫さんが場を綺麗に保つことにすごく時間をかけていらっしゃるんだなっていうことが伝わってきます。正直、14年も経っているようには見えないです。

ーこのお店の気に入っているところをお聞かせいただけますか。
栫さん:僕はね、もう全部好きですね。
休みの日もここに来て、1人で一日を過ごす。それが僕にとっては贅沢なんですよね。電球や電気のかさまでね、一つ一つ掃除するのも好きだし、掃除が終わったら好きな曲をかけて半日をゆっくり自分の時間にするとか、自分のためにコーヒーを入れるのも最高ですね。
奥さま:私も、この空間全部ですね。お休みの日に用事があって、ここのドアを開けた途端に、空気が違うって感じたことがあったんです。私自身もほっとするような、すごく安心できるような感覚。神社なんかの聖域に入る時の空気感みたいなね。
栫さん:佐藤さんが作られた建物で飲食店をされているところに、僕たちも出かけさせてもらうことがありますけど、やっぱりうちの子が一番可愛いですね(笑)。
ー使われている素材の良さが、栫さんのお手入れによって、ますます味わいを持って変化していて。この先ももっと素敵な時間を重ねていくんだろうなと想像できます。
栫さん:今、ちょっと右肩を痛めてしまってお店はお休みをしていますが、毎日の掃除は、本当に左手だけで1日かかっても同じことをしたいんですよね。ここで過ごす時間が大好きで、大切なものだから。できるだけ、続けていきたいですね。

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庭|庭師松下
鉄|tipura studio. 佐々谷良
左官|藤田勝行
インタビュー|小川直美
写真|大﨑 俊典(photo scape corner.)