episode. 8

その場所に建物ができた先に
紡がれいくことがやがて文化になる

その場所に建物ができた先に
紡がれいくことがやがて文化になる

半田 俊哉さん、平田 智子さん
(エイチ・アンド一級建築士事務所)

丹波篠山の山林を背景に建つ、エイチ・アンド一級建築士事務所。
共に設計士である半田さんと平田さんのご夫婦がひらくこの場所は、広々とした打ち合わせスペースを備えた設計士事務所のほかに、「月書房」という屋号の本屋も併設されていて、色々な人がふらっと立ち寄れる場所として、街にひらかれています。
お二人が篠山に移住したのが2016年のこと。里山で暮らしながら感じたことや、この場所での人との出会いから、創るものにも変化が生まれているといいます。
設計士として。生活者として。
どちらかの視点に片寄ることなく、暮らしを見つめるお二人に、この場所のこと、ハンドワークスとの関係性、家づくりの視点や大切にしてることを伺いました。

設計:エイチ・アンド一級建築士事務所
施工:HANDWORKS
竣工:2023年11月

何もなかった時より、その場所が良く感じられるように

書店「月書房」と、設計事務所を兼ねたスペースとして。

ー明るくて開けていて、素敵な空間ですね。

半田さん:2023年に、この場所を作りました。施工はハンドワークスさんにお願いをし、書店もあって、事務所や打ち合わせのスペースもあって、時々僕らが話を聞きたい人を招いてイベントスペースとしても利用しています。

人が集まって来やすいように、天井をコンビニのようにフラットにしています。住宅の場合はもう少し守られて欲しい感じもあって軒を下げるんですが、ここは誰でもふらっと来てくれたらいいなと思って。

広々と開放的な土間をまっすぐに進んで、入り口へ。

ーこの建物を外から見た時と、中に入ってからでは、室内の印象も外の景色も見え方が変わりますね。中から見た方が外の景色とひと続きな印象があって、不思議な感じがします。

半田さん:そうですね。内側からは、見えるもの全部が庭として感じられるように。外空間をしっかり取って、室内は外側に向かって開いて、空間を介して、中と外がつながるようなイメージで設計しています。

この場所に限らず、建物の中に入った方がその場所をより良く感じられるように。建物を外から見た時も、その場所に何もなかった時よりも、建物があることでこんなに良い場所だったんだと思えるように、といつも考えています。

僕たちはどうしても、元々の風景を変えてしまう仕事なので。

室内から土間、植栽からその先の風景へ。隔たりを感じさせない景色が広がる。

ー施工はハンドワークスに依頼されたんですね。

半田さん:はい。この建物自体、自分たちの身近にあるいつか土に還るもの、再生されたものや再生できるもので作りたいと思っていました。大工さんも同じように、近くにいる信頼できる方に、ということでお願いしました。

佐藤さんのことは、たまたま僕たちの近くにいらっしゃるけど、全国を探してもなかなかいないすごい人だぞって思っています。

図面に書ききれないことが、汲み取られている感覚

事務所スペースから月書房を望む。ガラスの引き戸がやわらかく空間を仕切る。

ーお二人がハンドワークスを知ったきっかけは。

半田さん:僕らが篠山に来たのが2016年。篠山にハンドワークスという工務店があることは、こちらに来て割とすぐのころから知っていました。なかなかお願いする機会がないまま、2019年にはじめて施工をお願いすることができました。

僕らの仕事は工務店さんの存在が大きくて、同じ目線でお話できる人がいらっしゃらないかなという話を、二人でよくしていたんですね。

工務店さんとの間では、ややもすると設計士である僕らが先生と呼ばれてしまう。そうではなくて、どちらが上でも下でもなく、同じ目線で、話したいことを話したいようにお話しできて、逆に施工面でも同じようにお話が返ってくるような方と仕事ができたらと思っていたんです。

半田さんと平田さんご夫婦。仕事の役割も明確に分けてはいない。

ー同じ目線、というと。

半田さん:なんというか、仕事でなくても会いたいと思う人と仕事をしたいという感じですかね。友人関係から仕事になったり、仕事で出会った方と友人になったりすることが、篠山ではよくあるので。

僕らの庭をお願いしている庭師松下さんと佐藤さんもお二人がお仕事を始める前からつながっていたり、どこまでが仕事でどこからがプライベートか境目がないような、仕事の話じゃなくても一緒にいられる人と仕事ができるのが理想ですよね。

佐藤:ハンドワークスの技術や、提案や工夫を買ってくれているという認識でいました。

半田さん:もちろんそれもありますけど、中核としてはもっと気持ちのところ。技術も当然お持ちで、その上で気持ちの部分でも、お話ししていて違和感なく通じている感じがあります。

何を大切にしているか。佐藤さんとは、重なっている部分が大きいように思うんですね。

石の上に柱を立てる、伝統工法の光付け(ひかりつけ)。自然素材と大工の技術が建物の表情をつくる。

平田さん:建築は、できあがるものは大きいですけど、実際には細かなところの積み重ねで作られているので。

特に、私たちが作りたいのは木や自然の素材を使った建物で、既製品を組み上げていくものではないから。工務店の方の、面取りの仕方や、木材をどう並べるかでも印象が全然変わってきてしまう。ただ、そこを私たちが全てお伝えして作っていくわけにもいかないですから。

図面に書ききれない部分のことを、佐藤さんたちが埋めてくれているように感じますね。

佐藤:木材は、本当に一つ一つ違うので、現場でいつも葛藤していますね。

収納スペースを分ける建具、梯子もこの場所に合わせて作られたもの。

平田さん:私たちからしても、よく考えてくださったんだなというのが伝わるんですよね。佐藤さんからのご提案は、すごく意を捉えてくれているなと感じるし、その信頼があります。

半田さん:ハンドワークスさんにお願いすると、設計と現場が区切られているような感じがあまりしないんですね。

僕らは家づくりで実際に手を動かしているわけではないですから、自分が作りましたとは言わないけど、でもそう言いたくなるような質感のものがそこにある。僕らの血が通ったものができあがっているように感じています。

「本当はこうしたい」を、大工技術で叶えられるなら

ーエイチ・アンドに依頼されるお客様はどんな方が多いですか。

平田さん:暮らしに対して、前向きな方が多い印象です。

私たちも、田んぼや畑のことなど、設計以外の時間に何を大切にして過ごしているかをホームページに掲載しているので。そういうことを良いと思ってくださっている方たちなんだと思っています。

設計士という仕事は、施主さんと先にお会いするので、施主さんとお話するなかでハンドワークスさんにお願いするのが良さそうだなと思った方をおつなぎしています。

農作業の繁忙期に理解を示してくれるお客様が多いそう

ーどんな方がハンドワークスと合いそうと思うのでしょうか。

平田さん:佐藤さんは現場に入ってから、こうした方がより良くなるんじゃないかって提案してくださる方なので。

半田さん:そういった提案を受け入れる余地のない方だったり、とにかく早く建ててほしいという方だと、ハンドワークスさんの良さも生きなくて、少しもったいない感じがするんです。逆にそういったことを楽しめる方なら、その方が家づくりはおもしろいと思います。

ー佐藤さんは、どんな時に提案されるんですか。

佐藤:図面を見て、本当はこうしたいんじゃないかと感じた時に伝えるようにしています。予算面の制約や施工側の手間を考えて、こういう書き方をしているなら、「こういうこともできますよ」と言葉にすることも大事かなと最近は特に思っているんですね。

伝統的な大工道具「ちょんな」でつくる名栗(なぐり)仕上げの柱

半田さん:先日も、ここの柱の名栗(なぐり)の仕上げを見た施主さんから「うちの柱もしていただくことはできますか」とご相談いただいたことがあって。佐藤さんが「手間だけの問題なんで大丈夫ですよ」って予算外のところはサービスでやってくださったので、施主さんもすごく喜ばれていました。

実際に、施工面での手間やかける時間が増えれば、本来なら費用も上がるんですけど、佐藤さんがしたいこととしてしてくださって、お客さまも喜ばれているなら、お互いにとって幸せなことなんだろうと思っています。僕自身、その考えに近いので。

佐藤:家って、すごく大きなものだから。細かいところを見ていけば、気になるところはどうしても出てきてしまう。

そういう中で、「本当はこれがしたかった…」という部分を自分たちの技術や手間で補えるなら、そうすることでお客さまが喜んでくれるなら、それは嬉しいことです。だから、その時の対価はお客さまの喜びなんですよ。

佐藤:僕としては、大工の仕事の価値を上げたいという気持ちがずっとあるんです。

もし仮にすごく高価な材料が必要というなら金額にも反映せざるを得ないですけど、大工の技術や手間だけで解決できることだったり、それをすることで「大工さんてすごいな」と思ってもらえるなら、やりがいにもなるというか。

その仕事によって大工へのイメージが変われば、将来なにか良いことが起こるような気がしているんですよ。

平田さん:この場所の窓枠の見え掛かりのところも、本当は細くしたいんじゃないかって私たちの思いを汲んでくださって、佐藤さんから「こんなふうにできますよ」とご提案いただきましたよね。

佐藤:綺麗なものをつくることが第一で、一般的に何を綺麗と思うかにはそんなに差がないんじゃないかと思っているんです。だから、本当はこうしたいんじゃないかなというところを言葉にして聞いてみること、そういう提案を買っていただいているんだと思っていました。

平田さん:佐藤さんはそれを普通だと思っていらっしゃるんですけど、そうでもないんですよ。

半田さん:佐藤さんが提案してくれている内容が、僕らのストライクゾーンに入っていることが結構大事なことで、それがずれているなら話は大きく変わってしまいますから。

そういう、価値観の重なりが多い人と仕事をしていられるということが、一番尊いことなんですよね。

作りたいのは建物ではなく、その場で紡がれていくもの

金曜の夕方からひらく「月書房」。新刊も古本も等しく並ぶ

ー篠山で暮らし始めたことで、お二人に変化はありましたか。

平田さん:自分たちではあまり分からないんですけど、田んぼを始めたことは大きかったかなと思います。

こちらに越してきてすぐに、近所のおじいちゃんたちがされていたので、私たちもしないとって。悩むまでもなく、隣の方からも教えてあげるよと言われてはじめました。

篠山にいると、自分の力だけではできないことがいっぱいあるんですよね。そういう話をすると必ず誰かが助けてくれたり、一緒にしてくれる人がいて。人に恵まれているなと思います。

ーそうした体験はお仕事にも影響していますか。

平田さん:そうですね。

敷地内にある小屋の屋根も、田んぼをしていて藁があるから葺いてみようかなって、藁葺きにしました。以前の私だったら思わなかった気がするんですね。材料も近くにあるなら、それを使おうって。そう思えるようになっているのは、この場所と周りの人のおかげな気がしています。

田んぼを始めて、どれだけの手間をかけてものが作られているか感じ方が変わったと話す

半田さん:家づくりで言えば、石膏ボードや合板、できるだけモルタルも使わないようになりましたね。

新しく施工する家は、コンクリートの基礎を作らない、石場建ての建築をしようとしています。壁も板倉造りという工法で、柱に溝を作って3cmの厚みのある板を落としていって、耐震性を出す方法があって。

そういう家づくりであれば、大工さんがいて、石と木材があればできますから。コロナや今もそうですけど、色々なことがあって輸入が難しい状況が来ても、影響を受けなくなるだろうなって。

石膏ボードを使わず木摺(きずり)下地で作られた土壁。

ーただ昔に戻ろうというのではなく、身の回りにあったものの価値を見直すようなかたちですね。

半田さん:僕らがしていることについて、最近、平田彼女が話してくれた言葉がすごくしっくり来たんですよね。「建物を作るのではなくて、文化を作りたいね」って。

平田さん:この場所では、自分たちも関心があることや知りたいことを、人を招いて話を聞く勉強会のような場を時々開いているんですね。

そのためにここを建てたわけではなかったけど、数年続けていて、集まってくれる人がいて。形があるわけではないけど、これが文化なのかもしれないと最近思っていたんですね。

この辺りにはまだまだ古いお家が残っていて、茅葺きだったり、土間だったり、何年かに1度改修が必要なとき、昔の方たちは結(ゆい)といって近所の方たちで集まってされていたそうなんです。

そういった結(ゆい)を復活できないかなって。といっても、近所の方というのではなくて、今の時代だからこそ遠くからでも、そういうことに関心がある人たちが集まるあたらしい結(ゆい)。それが続いていけば、やがて文化になるんだろうなって。

最近はそういうことも、私たちの仕事なんじゃないかなと考えたりしています。

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左官|小畑 裕昭
庭|Landscipe

インタビュー|小川直美
写真|大﨑 俊典(photo scape corner.)

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